”他人事”ということ

恋人が被災した。

 

2024年1月1日。

深夜、年越ししてすぐにLINEをした。

あけましておめでとう。

今年もよろしくね。

実家で過ごすお正月はどんな感じ?

そういえば、行きたいライブがあるんだけど一緒にどう?

 

そんなことをやりとりしていた。

 

あけましておめでとう。

今年もよろしくね。

実家では食べてばっかりです。

ライブ、一緒に行こうよ。

 

恋人は連絡がマメじゃないし、そんなに得意じゃない。

だから、こちらからもあんまり連絡しない。

お正月くらいいいかなって久しぶりにLINEして、珍しくはやい返信にニコニコしながら眠った。

 

昼前に起きて、朝ごはんを食べて、薬を飲んで、私一応コロナにかかってしまったので、とりあえず寝ておくか、と布団で横になった。

何時間もうとうとしながら過ごしていたら、携帯電話からすさまじい音が鳴った。

 

緊急地震速報だった。

 

あ、まずい。あわてて布団に頭ごともぐりこんで、腕で頭を守った。

幸い地震らしい地震はこなかった。

携帯電話を慌ててチェックした。

 

石川県で震度7

 

石川県?今恋人がいるのって、隣の富山県だ。

え?大丈夫なの?

 

災害時に個別連絡を取るのはタブーとわかっていたはずなのに、慌ててLINEを開いた。

 

『大丈夫なの?』

返事がなかった。

 

それはそれはもう慌てた。我が家にテレビがないからって、普段連絡を取らない母親に『災害放送どうなってる?』ってLINEした。Twitterでみっともないツイートをして、それを見た友達が何人か連絡してくれた。電話する?って言ってくれたり、不安だと思うけど、って言ってくれたり、みんなあたたかいなと思った。

そうこうしているうちに恋人から連絡があって、また慌ててLINEを開く。

 

地震やばい』

『高台の避難所にいます』

『一応大丈夫』

 

地震、高台、避難所、……めまいがしそうな文字が並んでいて、本当に、頭を抱えた。

 

色々聞きたいことはあった。なんなら今すぐでもとんでいきたかった。

もちろんそんなこと出来ないのだけれど。

 

『無事でよかった。スマホの充電くっちゃうといけないから一旦連絡やめるね。無事におうち帰れたらまた連絡してほしいな』

それだけなんとか打って、送信する。

 

返信がいつ来てもいいように、スマホの消音モードを解除して、一番大きな音量にした。そのまま布団でまた横になった。心臓が痛かったので、こんな時は寝たほうがいいと判断した。なにかあったら怖い、と思って、スマホに小さい画面でニュースを表示させていた。

うとうとするたびに、地震の通知で目が覚めた。LINEの音がするたびに飛び起きて確認したけれど、恋人からは『了解』を最後にまったく連絡が来ていない。

親友に連絡をとった。即レスとかしなくていいから、なにか、他愛もない話がしたいと言って。気を紛らわせようとした。精神科で処方されていた頓服の安定剤をのんだ。いつまでたっても連絡が来ないまま、23時を過ぎた。ニュースを見るのも精神的に限界がきて、ご飯でも食べようかと思ったけれど全然なにも食べられなくて、せめてシャワーだけでもと身体を起こそうとして、そのまま1時間が経った。

 

 

大学生の時に、社会問題に取り組む研究機関に所属していた。そこでの活動の一環で、被災地支援活動をしていた。

東日本大震災が起こってしばらくしてから宮城と福島に行った。茨城で水害が起こった時もみんなでバスを借りて被災地に向かった。熊本地震の時だって、1週間近く現地で泥かきをしたし、学校中から動物病院に送る物資を集めるキャンペーンをしてそれをすべてとりまとめをして、だって、そういうことをするのが、無関係だった自分にできる数少ないことだ、と。そして自分は災害時に平常心を持ってそういうことが出来る人間だと思っていた。

 

ところがどうだ。

 

今私は、自分の生活すらうまく出来ないほど、平常心を欠いている。

なにを思いあがっていたのか。自分は強いとでも勘違いしていたのか。

 

大きな自然のちから……災害を目の前に、ただ一人大切な人がいると、こんなにも身体が動かない。

結局のところ、私は今まで足を踏み入れた被災地をみんな、”他人事”だから。平常心で動けていただけなのだ。

そうでなければ説明がつかない。

ただ一人の人間が、避難所で寒い思いをしていないかなんて想像して身体が震えて動かないなんて、どこが強い人間か。

今まで出会ってきた被災地の人たちに、本当に心の底から、寄り添えたことがあったのか。やってきたことは無駄でエゴで偽善で、本当にやっていて意味のあることだったのか。

弱い人間だなと思った。地震が起こってからずっと具合が悪い。一人の人間の安否だけでこんなにも揺らぐ。大切な人が出来るのは怖いなと思った。過去に出会った被災地の人たちも、みんな誰かの大切な人だったのに、それに気が付かないで漫然と、向き合ったふりをしていた。

本当に、ごめんなさい、という気持ち。

謝ったって別に、どうにもならないのはわかってて、それでも心の底がぐらぐらと揺れる。

とにかく、私は一旦、私を取り戻さなきゃいけない。こんなことを考えていても、誰かがあたたかい夜を過ごせるわけではないのだし。

わかっていて、なにも出来ない。無力。こわい。本当にすべてが恐ろしい。

こうやって馬鹿みたいにブログで言い訳を述べることで、なんとか冷静になろうとして、そして許されようとして、本当に馬鹿みたい。

 

今できることを考えたい。今度は、他人事じゃなく。