恋人と別れ話をした。
遡ること2ヶ月前。
急に、LINEの返事が来なくなった。
未読のまま3日とかがザラ。やっと返事がきたと思えば、一言。
あーなんか、心が離れてきてるんだろうな、と思った。
元々デートの予定なんて1ヶ月に1回とかだったのに、連絡すらこないんじゃ、どうしようもない。
毎日LINEの画面みてはため息をついていた。
桜の花が咲いたら会おうなんて、そんな約束馬鹿みたいに守って、遠距離でもないのに。
友達に「浮気とか」と言われて半狂乱になった。
精神の医者に「捨てられたくないなら料理でも覚えたら?」と言われて泣き暮れた。
恋人に気持ち悪いLINEを送った。
『私のこと、気持ち悪いと思ってるよね?
黙ってればいい?ピル飲んだらいい?お金?
私どうしたらいいの?』
返事なんてあるわけなかった。
4月21日。
ふつ、と頭の中の糸が切れる音が聞こえた。
死ななきゃ。
目の前にあったブロンとアリピプラゾールを山ほど飲んで、横になった。
食べかけのうどんのこと。回しっぱなしの洗濯機のこと。
そして、恋人のこと。
『ごめんね、生きてるの限界になっちゃった。
ばいばいね。』
送信ボタンをおして、LINEの通知を切った。
このまま死んで、部屋が腐ったら大変だなぁ。
そんなことを考えて、Twitterに「明日頃に通報してください」と書き込んだ。
書き込んだあとに怖くなって、少しだけ吐いた。
Twitterをみた友達から電話がかかってきて、話をしてもらった。気持ちも落ち着いて、あと単純に飲む量がたりなくて、目があんまり開かなくなったのと手が震えてただけで終わってしまった。
あー。かっこ悪いなぁ。
さっさと死ぬことすら出来ない。
彼に、死にますなんて言っちゃったのにな。
失敗ばっかり。
LINEを開いた。
『どうしていいかわからない』
『明日仕事休むから、話し合おう』
『心配』
ふーん。こういうLINEの時はすぐ返事できるのに、無視してたんだ、今まで。
『失敗した』
『目と手が動かなくてうまくメッセージ打てない』
『そっちいこうか?』
「身体動いたら仕事いくからいいです」
『落ち着いたの?』
素早く付く既読マーク。
素早い返信。
いつも意図的に無視してたんだなぁ。悲しいな。
話し合いってなんだろう、別れるんだろうな。
悲しいな。寂しいな。
でも、こうして返事が来て嬉しいなぁなんて思う自分もいて、心底バカだなと思った。
『土曜日会おうよ』
『お寿司食べに行こう、回らないやつ』
「別れ話なら今電話でして、外で泣かれても困るでしょ」
『しないよ、別れ話、多分。』
「嘘つき」
土曜日、個室の回らないお寿司屋さんを予約した。
予約の2時間くらい前に待ち合わせて。
あっちは1駅で着くから余裕、なんて言いながらいつも通り遅刻して。
「時間あるけどどうする?話するならカフェでもファミレスでも、カラオケだってたくさんあるし」
「せっかくだからカラオケにしよう」
「うん」
目の前にあったカラオケに入って、2人でウーロン茶飲んで、少し無言になって。
「歌わないの?」
「え、歌うの?話すんじゃないの?」
「話すのはお寿司食べながらでいいじゃん」
そう言って、浜田省吾を歌い出す。
「採点モードにしようよ」
「やだ、私歌下手なんだよ」
「そういう人の方がうまかったりするよね」
「プレッシャーやめて」
デンモクのランキングをみてあーだこーだ言って、ジブリの曲を見つけた彼が「ジブリ美術館いこうよ、行きたい」なんて言い出して、なんで未来の話するんだろう?って泣きそうになった。
君を思い出すラブソングなんて歌いたくなくて、わざと変な歌ばっかり歌ってみせた。
2時間なんてあっという間に過ぎて、お寿司屋さんに移動した。
広い部屋に2人だけ。
ウーロン茶とジャスミン茶で乾杯して、私の方から「この度はすみませんでした」と話を切り出した。
「言い訳にはなっちゃうんだけど、一応、カンペ用意したの。今回こういうことをしちゃった理由とか。」
ジャスミン茶を啜る彼に紙を見せる。
「まぁ見てもいいけど、どうせ別れるよ?」
紙を持つ手が震えた。
「……そうだよねぇ」
「うん」
頷いておいて、紙を私から奪い取る彼。
紙には、私の障害と考え方の歪み、今回死を選ぼうとした経緯、あとは、過去にグルーミング被害を受けていた時のトラウマになっている「お前からセックスをとったら何が残るの?」という言葉からくる性依存傾向のこと。謝罪の言葉。
別れるなら今のうちだ、という言葉。
でも、できれば、努力するから向き合わせて欲しい、と言う言葉。
「あーはいはい、なんか、僕の推測通り。返事とかしなかったのは、本当にごめんなんだけどね」
くだらなそうに紙を読む。
「怖かった、だって、デートの時に毎回セックスなんてしなくてもいいのに、ないと不安そうにしてたり、それで訳わからないLINE送ってきたりしてさ、あーこの人ほんとに依存症なんだなって思った。別れて、治療に専念してほしいよ。」
「うん」
涙が出てこない。こんなこと言われても。
向かいに座る彼の長いまつ毛を眺めて、あー綺麗だなぁ、とか考えた。
「でもさ、友達としては普通に支えたいんだよ、嫌いにはなってない」
「…は、」
「たまに会って、おしゃべりしたり出かけたりして、セックスはしないで。それでどう?」
あーまただ、と思った。
最初の彼氏にも言われた言葉。
友達になりたい。
「私って、いっつもそう」
そう呟いたら涙が出てきてとまらなくなって、それと一緒に言葉もぼろぼろ溢れてきた。
「わたしって、いっつもそう。誰の大切な人でもない。その他大勢の、ともだちのひとり。なんか透明になったみたい」
泣いている私を見かねて彼が立ち上がり、私の隣の椅子に腰掛ける。そして、手首にそっと自身の指をのせる。
「こういうことするのも、もう嫌だよね」
「うん、嫌、だって別れるんだから」
「だよね」
「友達だって嫌」
「そんなことしたら残酷かな」
「うん」
私の箸を手に取って、目の前に置かれたお寿司をひとつつまんで、私の口元に押し当てる。
「ほら、お寿司食べなよ」
「うん」
恋人同士みたいだけど、もう恋人じゃないのか、そう思ったらまたぼろぼろ泣けてきて、机に突っ伏して泣いた。
「僕のどこが好きなの?」
「そんなこと聞いてどうするの、別れるくせに」
ある程度泣いて、あー落ち着かなきゃ、と思って、なんとか涙をとめる。
彼はそれを見て元の向かいの席に戻って、お寿司の注文用紙の裏側にボールペンで文字を書く。
『僕は、怒っています』
『命を粗末にするなんて』
『ばーか』
きったない字だな〜と思った。
『5月にジブリ美術館いきましょう』
「いかないよ、別れるんだもん」
そう答えると、彼は可愛くない泣き顔の絵文字を紙の上に書いた。当の本人は無表情だった。絵文字の涙は下に描かれたバケツにたまって、溢れて。なんでそんなもの書くのかな。泣いてないくせに。
「あなたのこと、嫌いになった訳じゃないんです、あの不気味なLINEが来た時は吐きそうだったけど」
「うん。でもさ、友達になって、どうするの?君に好きな子が出来たら私また見捨てられるの?」
「なんでそうなるんですか」
「私、もう誰にも嫌われたくないの、限界」
「僕はあなたが心配です、今度こそ死んだりしたらと思うと」
「じゃあ!言うけど!私はどうせいつか死ぬの!それは君なんか関係なく!!!!」
友達に戻るくらいなら、嫌われたい、と思って叫んだ。
それを見た彼が明確に怒りを滲ませた顔をした、折れそうなほどボールペンを握りしめて、そして一筋涙を流した。
「あーほら、鼻水でてるよ、ティッシュあげる」
ティッシュを渡して、微笑む。
「私、自分でもコントロールできないの、いつか死ぬんだと思うの。たくさん大切なものや人があるのに、でも、私、そういう全てから、嫌われて見捨てられることが死ぬよりもずっと怖いの。」
彼は無言で鼻をかむ。
「僕は、あなたのそういう暗い性格が嫌いです。命を粗末にする人はもっと嫌い。努力が苦手とか言うところも価値観が合いません。嫌いなところ、たくさんあります」
「うん、知ってる」
彼は小さな声でなんだかボソボソ言っていて、でも私はうまくそれを全部聞き取れなくて、ただ黙って笑った。
「でも、全部嫌いな訳じゃない」
「うん」
「過去のバカな男の話なんか知りません、『お前からセックスをとったら何が残る』だぁ?たくさんあります、僕が証明します、過去の男の話なんかしないでください」
「……うん」
あー、ずっと言われたかった言葉だ。
いや、たくさんの人が伝えてくれていた。
それなのに、自分で自分の価値を信じれなかった。
だから死のうとした。
涙がまた出てきて、声を殺して泣いた。
机に水たまりができるほど泣いた。
「どこが好きって、さっききいたじゃん」
「はい」
「たくさんあるよ、でもね、はじめてだったの、手を繋いで街を歩くの」
「……ここは僕が払いますね、10年後でもいいし、今度ご馳走してくれればいいから」
「…なんで別れるのに未来の話をするの、やめてよ」
「このまま帰るのもなんかアレだね、ちょっと歩きましょ」
この夜が永遠に続けばいいと思った。
そうしたら、この人のこと失わないのに。
ふらっと入ったゲームセンターで、太鼓の達人したり、マリオカートしたり、クイズのゲームをしたり、ガチャガチャを見てやいのやいの言ったりした。
涙は無理矢理とめた。
結局ゲームセンターで2時間くらいわいわいして、でももう終電の時間もあるから駅に向かった。
「気をつけて帰ってね」
「そんな気分じゃない、てきとうに帰るよ」
「なんで怒ってるの」
「当たり前じゃん、私、フラれてるんだよ?ご機嫌に帰るわけないじゃん」
「怒ると案外こわいんだね」
「うるさいな」
「それじゃまたね」
「さよなら、もう会わないよ、別れるんだから」
「そっか」
駅の階段を降りていく彼を見送った。見えなくなるまで見送って、見送って、やめて、反対方向へと歩いた。
髪の長い彼だった。後ろ姿、長い髪が揺れている姿の記憶を反芻しながら、電車に乗り込んだ。
友達に『いやーフラれました』なんてふざけたLINEを送って、ふと思い立って、悩んで、結局彼にもLINEを送った。
「楽しかったです、ありがとう。うまくできなくてごめんね。さよならね、おやすみ」
『こっちこそごめんね、気をつけて帰ってね』
トーク画面を非表示にして、泣きながら電車に揺られた。
あーまた1人。そんなことを考えていたら、LINEの通知が鳴り響く。
私のお気に入りのスタンプ。
彼からだった。
私が使っているのを見て、可愛いねなんて言っていたやつ。いつの間に買ったの?お揃いのものなんて嫌がってたくせに。
しかも、なんで泣いてるやつ送るの。
「そのスタンプ買ったの?笑」
「なかないで〜」
つい優しくしたい、縋りたい、そんな気持ちで、その二言を送信していた。
『いますごい泣いてる』
『なんの涙かわかんない』
『寝る』
なにそれ。
「なんでそっちが泣くの」
「こっちのセリフだよ」
叫びたくて、我慢できなくてメッセージを送信した。
「ねぇ、いまからそっちいったらだめ?」
「帰りたくないよ」
何回も言う、この夜を永遠にしたかった。
『家でる』
『さっき別れたところ戻ります』
電車を飛び降りて、走って反対ホームの電車に飛び乗った。
汗だくだった。
待ち合わせ場所に彼はいなくて、あたりをずっと、ぐるぐる見回した。
いつもと同じ、私の方が遠いのに早く着いて。
階段をゆっくり登って来た彼をみつけて、つぶやいた。
「なんでそっちが泣くのよ」
「わかんないです」
「終電、おわっちゃったよ」
「どっかお店入ります?やってるとこあるかな」
とりあえず2人あてどなく歩く。
「心配でした」
「でも別れるんでしょ?」
「そりゃそうでしょ、まさか、やり直せると思って来たの?」
嫌な奴。思ってないよ。君が頑固で融通がきかないこと、私が1番知ってるもん。
立ち止まって、ぽつり、ぽつり、と話す。
「告白の手紙をもらった時、嬉しかった。あなたのこと好きになろうと思ったんです」
「なにそれ、好きじゃなかったってこと?」
「そうなのかもしれない」
「なにそれ、最悪だね」
もう涙も出なかった。
「私、初めて会った時、言ったじゃん、勘違いしちゃうからやめてって」
「うん」
「好きじゃないのに好きって言ったこと、絶対に許さないから」
「うん」
無言になって、またぽつぽつと歩き出す。
「泣きつかれた」
どちらともなくそんなことを言って、悩んで、悩んで、ラブホテルに入ることにした。もうなんでもいい、横になって眠りたかった。
ホテルまで歩いて、入り口で彼が立ち止まった。
すごく苦しそうな顔をしていた。
「なに、別にセックスしないよ、だって私のこと好きじゃないんでしょ」
「…」
フロントで1番安い部屋を選択して、てきとうにお金を払って、部屋に雪崩れ込む。
私は髪を括って、メイクをおとして、薬をのんで、靴下を投げ捨てて、ベッドに潜り込む。
彼はそれを部屋の隅の椅子に座ってただ眺めていた。
「半額払ってるんだからベッド半分使ったら?別に触りもしないし、背中向けて寝るから」
「あなたが嫌かなと思って」
「嫌なんて、私言った?」
「……」
ベッドに潜り込んできた彼はメガネを外すこともなく、ただ私を見つめていた。
「なに?」
「めろこさんって、めろこさんの匂いがするなぁって」
「なにそれ、君は君の匂いがするよ」
「そう?」
「そうだよ、てかメガネ外したら?」
「外したらなんにも見えなくなっちゃう」
「寝るんだからいいんだよ」
メガネを奪い取って枕元に置く。
あぁこれ、クリスマスに2人で選んだやつだ。
深い赤茶色のフレームのメガネ。
部屋の電気を消すと、その途端に彼が声をあげて泣き出した。
「だから、なんで君が泣くの?」
「絶対に別れる」
「知ってるよ」
「別れる、もう好きじゃない、やだ、」
「うん、知ってる」
「手握らせてください」
「なにそれ」
手を差し出すと、まるで小さな子供みたいにその手に縋りついて泣いていた。
「あったかい」
「うん」
「ごめんなさい、許して」
「私は神や仏じゃないから、なにもできないよ」
「ごめん、ごめんね、ごめん」
泣きながら私のことを抱きしめてくる。
「私さぁ、別れたら、君が笑って過ごせると思ったから、別れることにしたのに、なんで泣くかなぁ」
「ごめんなさい」
彼はそのまま何時間も泣き続けて、夜が更けた頃に泣き疲れて眠ってしまった。ベッドから抜け出してシャワーを浴びる。そしたら、私の姿が見えなくなった彼がまた泣き出して名前を呼ぶから、あわてて服を着てベッドに戻った。彼を寝かしつけて、一緒に寝ようか悩んで、結局眠れなくて。
ベッドから再び抜け出して、メイクをして、甘いコーヒーを飲んだ。
友達にLINEだけして、先に部屋を出ることに決めた。
フロントに電話かけて、それで、私だけ先に帰る。
うん。そうしよう。
でも、いざ受話器に手を置いたら、あぁこの寝顔、2度と見ることもないんだな、と思ってしまって、つい頭をそっと撫でてしまった。
そのせいで彼が目を覚まして、また泣き出した。
「あーあーごめんね、今私、先に出ようとしたのになぁ、タイミング悪いなぁ」
赤ちゃんみたい、と笑ってベッドに戻る。
「もうあなたのこと好きじゃないはずなのに、なんでこんなに悲しくて苦しいのかわからない」
彼が絞り出すように呻く。
「うん」
「楽しかったなぁ、クリスマス過ごしたり、花見したり、ライブ行ったり、」
「うん」
「でも、価値観あわないし、食生活とか、生活習慣とか合わないと思う、そしたらいつか別れなきゃいけなくなる、もっと苦しいよ、だから、今別れます」
「……なにそれ?なんで起こってない未来に怯えて、今目の前にいる私から目を逸らすの」
「…」
「私に死に逃げるなって怒ったくせに、自分は逃げるんだ」
「…」
「私たち、ちゃんと対話してないよ。上辺だけの会話じゃない、泣いてばっかりで。未来の話しようよ、すり合わせようよ」
「未来の話って…?」
「なんでもいい、ちゃんと話そうよ」
「…」
「考えがまとまらないなら、一旦保留でいいじゃん、今すぐ答え出せなんて言わないよ」
「でも答えは変わりません。いつか別れる、そしたら僕もう、立ち直れないかもしれない」
「なにそれ」
「…失恋がこんなに辛いなんて思わなかった」
「いやフラれてるの私なんだけど、保留も嫌なの?じゃあ絶縁だよ、友達なんて絶対嫌、だって私は君が好きだから」
彼が部屋の隅の椅子に座って、ぼんやり天井を眺める。
「ごめんね」
「最後に駄々こねさせて、私、君と出会ってから明るくなったって言われたよ、これからもっと明るくなるよ、治療だってもっと真剣に取り組む、カウンセリング頻度あげるし、医者変えてもいいし、自殺企図だって乗り越えてみせるよ、君がいてくれるなら。それでもダメなの?」
「僕はさ、1回だめだなーって思ったら、もうそれ以上考えられなくなっちゃうんだよ」
「じゃあさ、今、何%くらい私のこと嫌?」
「95%」
「じゃあ、残りの5%にかけようよ、厳しい試合にはなるけど」
「…」
「まぁ、あれだけど、いつか結婚して子供が欲しいって言われたら、私はもうなんにも言えないんだけど、私障害者だから子供産めないし、それに関しては君にしてあげられることがないから」
「子供なんかいらない!!!!」
また泣き出した彼がベッドの縁に座って、手を握る。
「ごめんね、ワガママいってくれたのに、ごめん」
「まぁしょうがないよね、別れたいんだもんね」
「嫌だ」
「どっちなの」
「きらい、絶対別れる、いやだ」
「そんなに、好きな子に嫌い嫌い言われると流石に傷つくよ」
「保留って、どうしたらいいの」
「心の準備ができたらさ、2人でまた話し合えばいいんだよ、期限決めてもいいし、それこそ美術館の日でもいい、もっと先でも、もっと早くてもいいよ」
「…うん」
フロントからの電話が鳴る。
時間だった。
ホテルから出るとすっかり朝日が登っていて、というか昼前になっていて、飲まず食わずで何時間も泣き続けたから疲れ果てていて、駅前のサイゼリヤで軽く食事をした。
「結局、どうしたい?」
「…保留」
「期限決める?」
「疲れた、今は考えられないです」
「うん、わかった」
彼がカバンから、シュガーシガレットを取り出す。
「これあげます」
「なにこれ」
彼は本当に、贈り物のセンスがない。
駅まで彼を見届けて、今度は「またね」って言って別れた。
その日の夜、帰りの電車で彼にメッセージを送った。
「私たち、対話が足りてないと思うの。だから、たくさん話し合おうね、考えがまとまったらとか、逆にまとまらなくて、とか、たくさん話して」
ラブレターに書いたんだった。
「人と向き合いたいと思った、そう思わせてくれたから、あなたと一緒にいたいです」って。
その時のことを思い出しながらメッセージを打った。
でもしばらくは私から連絡することはないんだろうな、だってもう、流石に泣きつかれたから。
保留にしたこと、いつか2人で「あの時ああしておいてよかったね、」って笑える日がくるといいな。
そのためには、まだたくさん泣くかもしれないし、足りない頭でたくさん言葉を紡がないといけないと思う。
でも、「価値なんて、僕が保証します」と言ってくれたんだから、その分くらい恩返しをしたい。
彼が泣かずに眠れるようになるその日まで、できれば側に居させて欲しい。
でもさすがに疲れたなぁ。
対話って難しい。体力勝負。
でも、人と人が一緒にいるって、なんて力強いことなんだろうな、と思った。
何万回だってこんな夜を越えていける気がする。
気がするだけかもだけど、ね。