なんかなぁなんだかなぁ

 

BAR凸凸に、元恋人を誘った。

前に、BARイベントに顔出してるんだよね〜と言ったら「楽しそう、行ってみたいな〜」と言っていたのをふと思い出したからだった。あとはまぁ、気まぐれ。多分、いや本当は下心もあった。なにか楽しいことにでも誘わないと別に会うこともないんだろうなと思っていたから。いや、もう別れたわけだし会わなくてもいいんだけれど。

そうしたら、予定ないから行く、と返事がきた。

なんでだよと思ったけど、誘ったのはこっちなので言わなかった。2人して馬鹿だ。

 

別に今更もう一回付き合ってほしいとは思ってなかったけど、なんかこう、うまく言えないけど、人との繋がりに縋りたい時期だった。もっとシンプルに言えば、寂しかった。それを茶化して、友達に「いや〜手コキだけでもさせてくんねぇかな」なんて言っていた。馬鹿だなぁ。私は何回私のこと馬鹿だなぁと思えば気が澄むんだろうな。

 

当日、入場して席について、酒を飲みながら、ちらちらと入口の様子を伺った。1杯目が無くなりそうになった頃、『21:40頃には着くよ』と連絡が入った。2杯目の酒を取りに行く。入口に後ろ姿が見えた。その瞬間、自分でも驚くくらいに心臓がうるさくなった。ときめきとかじゃなく、あぁ本当にそこにいる、という謎の感動に近い。偶然を装って振り返って、声をかける。

「受付、そこだよ」

「うん」

2杯目の酒を受け取って、知らん顔して席に戻る。

しばらく様子を伺っておこう、向こうも私にべったりされても迷惑だろうし。そう思ってしばらく酒を飲んでいたが、一向に動く気配が見えない。フードを注文するついでにもう一度様子を見に行く。

バツの悪そうな顔をしてコークハイを啜る彼と目が合って、笑った。

「なにしてんの」

「いや、俺めちゃアウェーじゃん」

「そしたらこっちの卓来る?前の雀卓でのんでるけど」

そんなことを話しながらカウンターに私が目を向けていると、彼に話しかける男性が現れた。

なんだ、私いらないか。

そう思ったらやっと心臓も落ち着いてきて、その場を離れるか少し悩んだ。けれど、結局その場に少し居座った。

話しかけてくれた男性が、私と彼に問う。

「お二人はTwitterの繋がり?」

「いや〜

なんで言い淀んでるんだよ。

「リアルの友達です」

そう言って誤魔化そうとすると、彼が吹き出して笑い出した。

「なにわろとんねん」

「いや!だってさぁ」

「あーもう、こいつ元カレ、元カレすわ」

「なんでバラすの!?」

「お前が笑ってるからだわ」

 

ばかばかしい。あーほんとにばかだ。やけくそになってる。何ヘラヘラしてるの。そう思いながら私もヘラヘラと、そこいらにいる友達に「こいつ元カレなんすわ〜可愛いでしょ」と言ってまわる。

 

そのあと、少し話をしながらちびちびとお酒をのんだ。

私は凸ノさんにシャンパンをおろす予定だったので、3人お酒がなくなったタイミングで2人をステージの近くに呼ぶ。

いつものシャンパンコール。コルクの弾ける音と華やかなシャンパンの香り。

2人はシャンパンを飲むと、そそくさとカウンター席の近くに舞い戻り、近くにいた男性客と談笑を始めた。

楽しそうならまぁいっか。

そう思って、主に彼を放置して私もその場を楽しむことにした。

男性3人と猥談に花を咲かせていると、いつの間にかすっかり酔っ払った彼と、彼に引きずられる形で最初に声をかけてくれだ男性が会話に入ってきた。

「めっちゃ盛り上がってるじゃん!なんの話?」

「めっちゃ酔ってるな

「そっちは酔ってないの!?」

2人で過ごした時にそんな酔ったことなかったくせにね、という言葉は飲み込んだ。見るからにみっともない酔い方。お酒にのまれているという表現が似合う。前から言おうと思ってたけど、君、声大きいよ。言おうとしてやめた。さっきから私、飲み込んでばっかりだな。

隣に私の友人が座る。彼は今日日あり得ないほどその人に絡んで、あからさまに迷惑がられていた。男同士とはいえ、普通にセクハラだなぁということも言っていて、嫌だなぁと思った。女の人ってどうせ顔や第一印象しか見てないよといじけていた。じゃあなに、私は君の顔が好きで付き合ったと思ってるの?そんな自信、どこから湧いてくるの。全然かっこよくないくせに。彼女を作る理由なんて、ステータスか性欲か、それか本当に好きかで、最初の彼女はステータスのために作ったと笑っていた。じゃあなに、それでいうと私は性欲のために作られたわけ?お酒でたくさんを流し込む。頭をくしゃくしゃと混ぜながら笑う彼をみて、意地悪な考えばかりが頭に浮かぶ。嫌な奴だなぁ私は。そのうち黙っていられなくなって、私もいやそれは違うとか、うるせぇお前射精できねぇくせにとか最悪なことを言う。

 

ポテトチップスを食べていた彼がふとこちらにその指を向け、私にも食べろと促してくる。私は無抵抗で受け入れる。

「付き合ってた時こんなことしなかったくせによぉ」

せめてもの悪態。可愛くない。

「こいつ付き合ってた時手も繋いでくれなかったんすよ、しかも、普段はまぁいいとして、ホテル行く数十メートルの距離もよ」

ここまできたら、もうこの人が、そして私がどれだけ嫌な奴なのか知らしめてやりたかった。地獄に堕ちてやる気持ちだった。

 

しばらくするとカラオケの時間になって、彼も私も12曲歌って、私は友達と喋り、彼はうとうとと船を漕ぎながら椅子に座っていた。

その後ろ姿をみて、あー、好きだったんだけどなぁ、と勝手なことを考えた。

多分、今でも嫌いではない。でも、もう、考え方や感じ方が、どうにも違うことをまざまざと見せつけられた気分だった。

それと同時に、なんか、もういいな。という諦め。それは彼を、という訳ではなくて、この世で誰かと愛し愛されることはもう無理で、私は結局のところ1人で生きていかなくちゃいけないのだ、と何故かその時思った。人である以上発生する、人と人の違い。私が誰かに愛を注ぐことはきっともう難しい。注いだとして、それが相手にとって心地よいもので、尚且つ、それをかえしたいと思って行動してくれるなんていう奇跡は、きっと起こらない。

 

そんなことを、眠くて揺れる彼の後頭部をみて思った。

 

あんまりにも卑屈で突飛な考えだけれど。

 

 

 

4時半頃、流石に帰るね、と立ち上がった彼を見送った。

見送った直後に電話がかかってきて、『番号札つけたままきちゃった、ごめん、これどうしたらいい?』と言う彼の元に走る。

新宿の朝、薄曇り、すえた臭い。

「ごめんごめん」

「いいよ、返しておくから。気をつけて帰ってね」

「うん、またね」

顔の高さまで挙げた手を握って、握手をした。細くて冷たい指だ。

もう2度と、こんなことは起こらない。

 

寂しいな、と思った。

でも、私の人生って、たくさん話す人がいて、時々こうやって握手をしたり、もっと時々抱きしめたり、抱きしめられたりする。そういうことが起こる程度には満たされた人生で、そろそろ"その程度"に満足するしなくちゃいけない日が、くる。

 

お店までの帰り道、少しだけスキップをして、すぐやめた。

明日ももう今日か、楽しい予定がたくさんある。

そのことに満足する、出来る、自分。

ある意味幸せなのかもな。

私のバケツはからっぽなんじゃなくて、少しだけ人より形がわるいだけなんだな、と思った。

 

お店に帰って、ドアを開いたら、なんだか全部どうでもよくなって、私は私の幸せに帰っていく。